1.
Learning
Oriented Assessment: An overview
n 言語学習は生涯で最初に行うものであり,本来,それは自然で魅力的なプロセスである。
n しかしながら,形式的 (formal) な言語指導の多くは,不自然なプロセスであり,挫折感を抱かせるような非常に非効率的なものにしている。
n これは2012年のEuropean
Survey on Language Competences (ESLC)の結果からも言えるだろう。
n 参加した16管轄区の半分の地域において,半分以上の生徒が前期中等教育課程終了時点でCEFRのA1レベル,またはそれ以下であった。
n 多くの国の言語教育において何かが酷く間違っているということは, 6年間の指導でこれだけの成果しか生み出せないことからもわかる。
n 評価と学習は密接な関係にあり,評価を行うことは自然なプロセスである。
n “learning by experience”という言葉にあるように,様々なタスクの成果 (outcome) は,タスクに従事している無意識的なプロセスに大きく貢献する。
n パフォーマンス, 観察, 評価, feedbackという一連のサイクルは全ての評価に共通である。
n しかしながら,教育測定,とりわけ大規模な標準化テストのメカニズムを通して行われるものは,学習を促進するように意図されたものでさえ,このサイクルを効率的に行えていない。
n ESLCでもっとも悪い成績だった国では,続く夏に行われた国が運営する試験で語学教師組合が“素晴らしい”と認めるような結果が得られたという。この結果からわかることは,ESLCが測定を始めた“コミュニケーション能力”とは異なるものを学生が学習し,テストされているということである。
n Learning oriented assessmentは評価の根本的な改変と,より効果的な学習へのビジョンを与えるものである。
n 本書はテスト機関の視点から書かれているが,その内容はformalなテストから教室での評価まで用いることができる。この全体性 (systemic) はLOAの特徴の一つである。
n 測定には2種類の目的がある。学習を促進することと,学習されたものを測定,解釈することだ。
n 状況によっては,学校のパフォーマンスを説明することも評価に課せられる責任の一つであるが,これは肯定し難い動機 (perverse incentives) を引き起こし,学習にとっての損害の原因になるため,上記の2つの目的とは相反するものである。
n 混在している様々な側面を全て確認し,生態学的 (ecological) に妥当な測定をする必要がある。
n 学習を測定,促進するという2つの目標は,形成的 (formative) 評価と総括的 (summative) 評価として特徴付けられてきた。しかし,LOAの立場では,よく知られるこれら2つの区別を疑わなければならない。これら2つの目的は基本的に一貫していないからだ。
n 全体的 (systemic) で生態学的 (ecological) なアプローチでは相補性を求める。つまり教室レベルのinformalな評価と大規模な評価は,どちらも学習の証拠(evidence of learning)と学習への根拠 (evidence for
learning)という2つの目的に貢献しなければならない。
n Figure 1.1は2つの相補的な領域を表したものである。
n 大規模な評価は縦軸を取り,低いレベルから高いレベルへの発達を説明する。
n 多くの場合は量的 (quantitative) に表されるが,ただ生徒を順位付けるだけではモチベーションの低下を引き起こしてしまう。ここで重要なのは,学習者や教員の注意を言語学習の目標へと向けさせるための“パフォーマンスの解釈”である(Figure 1.1内にあるCEFRの基準がその例である。)。
n 横軸は,学習者の質的な (qualitative) 違いを表している。熟達度という広い括りでは同一レベルとされるが,学習者個人のニーズや経験,認知面はそれぞれ異なる。
n 学習者の特性を理解することは学習や教授を個人化するために必要不可欠である。
n 構成概念や熟達度に関するスケールの解釈は専門的な問題になるため,量的な領域である縦軸は評価の専門家が担う領域である。一方で,質的な領域である横軸は教師が教室で担う領域である。
n しかし,両者は相補的であり,量的な根拠は個人のスキルや全体の能力を特定するのを助け,質的な根拠は量的根拠を反映したgainを特定することを助ける。
n 学習に関するポジティブな根拠は,学習者のさらなる学習を動機付ける。
n LOAのモデルは,テストに基づいた指導や,教室に大規模テストを課すことを目的としているのではなく,学習への補助的な枠組みを与え,教師や専門家の専門性を一貫した相補的なものにするために存在する。
n Figure 1.2が示しているのは学習における4つの世界である。個人の認知発達に関する“個人”。言語スキルの獲得を称賛する“社会”。学習を教科やカリキュラムの目標に落とし込む“教育”。そして“評価”である。評価に用いるタスクは,学習者に意味のある測定と社会的価値のある証拠,学校で達成する目標,指導がどの程度効果的であったのかを根拠づける構成概念を提供し,他の世界と本質的に繋がっている。つまり,目標の共有が可能である。
n Figure 1.3はタスク,観察,Feedbackに基づく学習サイクルを通した世界の繋がりを示している。
n タスクは他の世界と繋がりを持つため中央に位置する。また,タスクは教室における経験とformalな教育を系統立てるアプローチのためのcontextを提供する。
n “社会”の世界はタスクに基づくパフォーマンスを評価し,“個人の認知”はタスクを通して発達し,“評価”はタスクを測定の土台とする。
n タスクを中心にすることは方法論的な主張ではなく,意味のあるコミュニケーションを行う学習者の認知的発達の重要性や,社会的価値のある共通目標を持った周辺の世界と適合するためのタスクの実用性を強調するものである。
n Figure 1.3では,タスクから学習へ2つの道筋があることを示している。現実世界の実際のタスクを通した自然な取得と,formalな学習によるものである。ここでも,自然な習得が学習の一部であるということは方法論的な主張ではなく,むしろ,意味のあるコミュニケーションの重要性を強調している。
n 学習の証拠と学習への根拠を提供するというLOAの2つの目的を達成するために必要な教室や評価に関するデータを並べるアプローチを提示する際に,Figure 1.3は第8章でも再び言及する。
n 本書の目的は,教室内の活動に役立つ詳細な処方箋を提供することではない。評価が学習に対してどのように良い影響を与えるかに関する一貫したモデルを示し,学習と評価について先行研究に基づき理論的視点から述べることである。
n まず,基本的な以下の3つのQuestionの答えを提示する。
[1]
学習とは何か?個人の世界,個々人の認知を扱う。
[2]
何が学ばれるべきか?系統立てられた教育と社会のニーズをいかに一致させるかについて扱う。
[3]
学習において評価の役割は何か?大規模な評価と教室での評価の相補的な役割について扱う。
The organization
of this volume
n この章ではまず要約としてLOAの主張,鍵となる要素からはじめ,続くチャプターで詳細に説明していく。
What is learning?
n この章では学習者に焦点を当てる。
社会構築主義(社会構成主義)
n 学習の明示的なモデルを受け入れるべきであるという主張がこの章では重要である。
n LOAが採用する学習モデルは社会構築主義のものである (Figure 3.1)。
n 社会構築主義では学習と意味構成は社会的プロセスと捉える。
n 学習とは対話であり,共有された実践,つまりコミュニティ内で形成された道具,記号,方法,理論を媒介とする。
n 社会構築主義は認知構築主義とは区別される。社会構築主義は認知発達の社会的コンテクストに焦点が当てられており,Vygotsky (1896-1934)の研究と関連しているのに対し,認知構築主義は個々人の認知に焦点が当てられ,Piaget (1896-1980)の研究に関連している。
n これらの違いは,個々人の認知発達を相互作用の身体的,社会的コンテクストに位置付ける状況的認知 (situated cognition) という概念を重視しているかどうかである
(3.1.1 参照)。
n Vygotskyの主張は相互作用が発達の基本であるというものである。相互作用は学習のためのコンテクストではなく,相互作用それ自体が学習である。
n 状況的認知の概念は,6.6 で示されるCambridge Englishが実施した構成概念の定義への社会認知的アプローチとも一貫している。
Classroom concepts
n LOAの先行研究では,教室内の相互交流を記述するため概念や,学習に好ましい状況を特定している。
n それらの概念が社会構築主義の用語で徐々に理解されつつあることは興味深い。教室内の相互作用の基本要素はタスク (tasks),目標 (goals), 足場がけ (scaffoldings), フィードバック (feedback), 創発 (emergence)である。
n タスク (task) は学習という相互作用を引き出すように計画された活動である (3.1.1 参照)。LOAのモデルでは,タスクのコンセプトが重要な役割を担っており,教室でのパフォーマンス,社会,大規模な評価の潜在的なつながりを提供する。
n LOA,とりわけ本書では,学習タスクを“個人にとって大きな意味を持つコミュニケーションをするための,目的のある言語使用”と定義づける。
n 目標 (goal) は学習者がタスクに従事しているときに心の中に持っていることである。先行研究では内発的なもの (intrinsic) と,外発的なもの (extrinsic)に区別している。内発的な目標とは,学習者が目の前のタスクを達成することであり,意味重視である。一方で,外発的な目標とは称賛など,学習とは関係ない刺激に焦点が当たるため,学習には適切でない場合がある。
n 足場がけ (scaffolding) は,タスクを行っている学習者への支援と説明されることが多い。社会構築主義では,学習につながるchallengeが存在する際にタスクに焦点を当てた相互交流を可能にするものと考える。
n フィードバックは,学習者がタスクに従事することで利益を得るという観点に関連している (3.1.1 参照)。社会構築主義ではフィードバックは足場がけと同種のものとみなす。
n 創発 (emergence) は学習者が言語を話すプロセスに関連している。この概念は,言語によるコミュニケーション能力が,意図的な学習(≒インプット)とは質的に高いレベルで異なることを捉えている。
What is language
learning?
n LOAのモデルは本質的には教科にとらわれないが,本書では言語に焦点を当てる。教育において言語は様々な役割を担っている。
[1]
母語
[2]
外国語
[3]
学校教育のための言語
n 言語学習のコンテクストにおける全ての介入で,上記した言語のいくつかの側面を認識するべきである。
Second language
acquisition studies
n 言語教授のためのLOAは第二言語習得論や応用言語学の知見にも基づいている。
n 本書では社会認知的アプローチに関連するSLA研究を短く紹介する。鍵となる概念は以下の4つである。
n Processing accounts (4.4.1)では,学習者が口頭/筆記で与えられた文法的特徴になぜ必ず気づく訳ではないのかに関する研究が行われている。
n Complexity theory (4.4.2)では,言語が文法の学習から現れるのではなく,他者とコミュニケーションを行っている話者から現れる複雑適応系 (complex adaptive system) であるという考えに対する支持する。
n Frequency-based accounts (4.4.3) では,教材の導入と配列へのアプローチを提供する。出会う頻度が高い語やコロケーションは,頻度が低いものに比べ,早く学習される。
n Complex adaptive system principle (4.4.4)では,コミュニケーションの必要性がどのようにコミュニケーション力
(communication power) を最大化させ認知的努力を最小化するという2重のストラテジーを駆動するかをモデル化するため実証的なデータを用いる。
What is to be
learned?
The desired
outcomes of learning
n 多くの場合,言語学習の目標が実践的なコミュニケーション能力の獲得であることには同意するだろう。しかし,社会構築主義としての目標は,学習者の性質 (disposition),態度 (attitude),実践的な学習スキル (practical learning skill)の変化であり,生活の中で達成されることが望ましい。
n したがって,もっとも良い結果というのは,学習者が生涯を通して学習することができる価値のある性質と学習スキルを習得することだ。
Language
proficiency: construct definition
n What is to be learned? で取り上げる2つ目のQuestionは,熟達度とは何か?という問題である。テストを行うためには明確な構成概念を定義する必要がある (5.2 参照)。
The content of
learning: Curricular objectives
n 構成概念は,望まれる結果であるコミュニケーション能力に関連している。What
is to be learned? で取り上げる3つ目の側面はカリキュラムの目標,つまり学習へのインプット (5.3 参照)に関してである。
n インプットとアウトプットの関係を理解するために,我々は創発
(emergence) という概念を知る必要がある。
n コミュニケーション能力とは高次な技能であり,意図的に学習した要素とは質的に異なるものである (3.5.5参照)。LOAでは教室での相互作用を学習者中心のものと,カリキュラム中心のものに区別する。
The roles of
assessment in learning
n LOAにおいて,大規模な評価と教室での測定は相補的な役割を果たすが,どちらも観察,評価,フィードバック,学習が可能な言語活動を模すタスクが中心であり基本的なプロセスを共有している。
n これら2つの領域の測定は,学習の2つの目的である学習の証拠と学習への根拠に対してそれぞれ異なる根拠を提供する。
Proficiency and
achievement testing: Measurement and meaning
n 大規模な評価に求められることは,それが熟達度を測定していることであり,つまり,現実世界での言語使用に関する目標基準準拠テストであることだ。
n そして,熟達度が低いところから高いところまである中で,学習者は今どこの段階にいるのか,またそれは何を意味するかを特定しなければならない (6.1 参照)。
n 熟達度と達成度の違いは,学習者は何ができるか?というように言語を技能として扱うか,何を学んだか?というように知識の総体として扱うかである。
n 大規模な測定では,測定の質である信頼性 (reliability)と,解釈の質である妥当性 (validity)に焦点を当てる必要がある。
n 第6章では,能力尺度の概念
(6.2),測定へのアプローチ (6.3, 6.4),WritingとSpeakingスキルのためのパフォーマンステスト (6.5)といった心理特性の測定について非専門家を想定して導入する。
Evidence of and
for learning: Large-scale assessment
n 第6章で取り上げる大規模評価のモデルは,学習されるものと現実世界をリンクさせた熟達度に焦点を当てている。すなわち,比較や解釈が可能な測定モデルであり,学習結果に焦点を当てた教科の指導に必要不可欠なものである。
n 良い総括的評価は学校での測定と相補的であり,学習の証拠と学習への根拠を提供する。
The nature of LOA
in the classroom
n 本章では学習中心 (learning oriented) の評価に関する本質的な要素を紹介した。
[1]
高次な目標であるコミュニケーション能力は,低次であるカリキュラムの目標とは質的に異なるがどちらも重要である。
[2]
汎用的能力である学習方法を身につけることが鍵となる。
[3]
母語と同様に,目的のある言語使用が言語学習を引き起こす。
[4]
高い得点を取るよりも,目の前にあるコミュニケーションタスクに従事することに志向することで学習はより効果的になる。
[5]
教室での相互作用では効果的な足場がけとフィードバックが重要である。
[6]
学習者と進捗を確認することは,彼らの学習を管理するのに役立つ。
n 学習中心 (learning oriented) の評価は教師と生徒の間で特定の責任を共有する。技能の発達は学生に責任があり,この責任は学生を自律的な学習者へと変える。教師は評価など様々な役割を担うが,もっとも大切な役割は責任を学生と共有する環境を作ることである。
Evidence of and
for learning: Learning oriented classroom assessment
n 教室での学習からの根拠は,学生のさらなる学習のために教師と学生によって使用される (7.4 参照)。
n 教室内での活動は,外部試験の補助としてその場での学習の証拠や学習への根拠を提供してくれる。
n 大規模評価では条件の統制や標準化が強みとも言えるが,教室内での評価で同様のことを行うのは難しく,望ましいとも言えない。
Aligning
large-scale and classroom assessment
n 最後に,大規模評価と教室での評価を一貫して相互に志向した(co-oriented)な全ての段階の根拠を結びつけ,LOAの包括的なモデルにする (Figure 1.4, 1.5)。
n マクロレベルでは,実世界での言語使用に関する目的や結果を位置付ける基準
(criterion) となる枠組みを提供する (図ではCEFR)。そこから高次の目標と低次の内容をLOAシラバスとして作成する。この時,外部試験が学習目標を定義する助けとなる。
n 達成度の記録は,大規模な測定を含んだ様々なレベルの根拠を受け入れ,高次の学習目標である基準に照らすことで解釈が可能となる。
n FIgire1.5は教室活動のLOAサイクル,つまり,解釈可能で何らかの記録を残すタスクへの従事,観察可能なパフォーマンス,フィードバックと授業計画の修正につながる評価,を説明するためにミクロレベルを拡張したものである。
n 詳しくは第8章で扱う。
In summary
上記内容の繰り返しのため省略